経営者にとって「成功する」ということは、他者からみてどのレベルであっても非常に重要である。

 つまり「成功とは、人との比較ではない自分自身にとって価値ある目標を前もって設定し、段階を追って実現すること」と私の仕事仲間である下田洋二氏が言っていた。彼と話をしていて成功するということについて少し深まった気がするのでここにメモしておこうと思う。

 先日の熊本県の次世代経営者向け「熊本県イノベーションスクール次代舎」における松尾健治先生の講義では、「成功とは変化すること」と学んだ。行動科学を唱えた、米国の心理学者クルト・レヴィン氏の変革モデルによると、変化は3つのプロセスを得てなされるらしい。

 上記のように定義され、一次的な混乱が次の再構築につながるとしている。

 つまり変化が起きる前提に、まず現状を変える理由、変えようと思う意思が必要で、この解凍という段階には、現状に危機感を持つなどがきっかけになることが多いが、もうひとつポジティブな変化の兆しとして、未来において望むべき目標を持つというものがある。どちらにせよ重要なポイントは自分自身から沸き起こる情動がなければいけない。

 では自らの行動を突き動かす思考はどのように形成されるのか。これは過去の癖によるものが多い。

 どんな状況で動いたのか、考えたのか、恐れで動くのか、ワクワクで動くのか。

 まずは自分の思考の癖を理解することから始める必要があり、またその癖が原因で変化を起こせないのであればそれを変えればいいだけである。

 思考の癖の中で理解してから行動するという人がいる。もう少し掘り下げると、理解してから行動しようと思うが、理解しても行動できない人もいる。理解して行動するという人は、理解のスピードが早ければ構わない?かもしれないし、従業員の立場ならば運よく優秀な上司や経営者によって仕事をこなせるかもしれないが、経営者がこういうタイプだと厳しい。

理解してから行動するという思考の裏に「理解しようという感情」と「行動を妨げる感情」がある。行動を妨げる感情は「不安」や「不満」でありこの感情を「安心」「満足」に転換できる具体案が必要になる。この不安や不満を言語化し、具体案を出せるようになれば、おのずとやるべきことが整理され、行動を促す目標が導き出される。

(椎野磨美の観察日記 ~感性と審美眼を磨こう~ より転載)

 経営者であれば、少なからず辛い経験や苦い経験があると思うが、それが変化の妨げになってはいけない。その経験を打ち消すようなビジョンや理想に向かって、現状を把握し常に満足しうる状況を積み重ねていくほかない。残念ながら立ち止まっている暇はない。

 経営は正解があるわけではない。いくら経営戦略やマーケティング、マネジメントを学んでも、実際にテキスト通りにいかないことばかりである。ただし、やみくもに行動するのではなく、各種テキストからヒントを得て、なんとなく自分なりの方向性を持てたらあとは進んでみるという勇気、勇気というと軽々しいイメージがするので覚悟の方がいいだろうか、自分が完全でないことを理解しながら進んでみて方向が違っているようならば変える、少し戻る、観察するなど、適切に行動を決定していかなくてはいけない。その時に自分を支えるものは、マズローのいう自己実現欲求や自己超越欲求ではないだろうか。

 

 最後に私が一番重要だと感じるのは、この「再凍結」というプロセスだ。

レヴィンは、変革の過程で学んだことを長期間維持するため、定着化・慣習化させることを主張している。新しいやり方を単に継続していくことで根付く部分もあるようだが、新しいやり方で成功事例が出てくることで、手応えを感じることが重要である、という。この小さな成功を「成功」と認識する他者との対話ないしコミュニケーションが必須ではないかと思うのだ。

 成功は自分自身のものだが、成功のプロセスは他者と共有しなければならない。それが次の成功を生むのだと思う。他者は誰でもいい、従業員でも上司でも家族でも友人でも外部専門家でもいい。自分の変化は他者と共有して初めて変化として認識される、と思う。

 ぜひ皆さんの周りでそのような変化を遂げている人がいたり、その過程にいる人が悩みながらも前に向かって進んでいるのを感じたりできたなら、どうかその行動を労ってあげてほしい。その瞬間を共有することは尊いものである。