令和3年度概算要求について

経済産業省から、令和3年度概算要求がだされました。

概算要求とは、各省庁が政策を実施するのに必要な経費を要望書にまとめ、予算を所管する財務省に送付することです。国の予算編成に先立って、「財政法」及び「予算決算及び会計令」に基づき、各府省庁は、毎年度、翌年度の政策を実施するのに必要な経費の見積書(概算要求書)を前年度の8月末日までに財務省に提出します。

概算要求書は、歳入・歳出、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為の見積書などで構成されます。概算要求にあたっては、あらかじめ閣議了解により「概算要求基準」が設けられており、各省庁が要求でする予算の目安となります。「概算要求基準」は国の予算編成に先立って財務省が各省庁に示す予算方針であり、歳出の無期限な増大を抑制するほか、国の重点投資項目を内外に示す意義もあります。財務省では、9月から各省庁から出された概算要求書を検討し必要な調整を行ったうえで、歳入・歳出、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為の概算(政府原案)を作成し、各府省庁へ原案の内示を経て、概算として閣議決定されます。

令和3年度概算要求ポイント

「新たな日常」を先取りした企業行動・産業構造・社会システムの転換

長期視点に立った日本企業による、「新たな日常」に向けた事業ポートフォリオの見直しに向けて、柔軟な事業再構築・事業再編、投資の加速、労働移動の円滑化、スタートアップとの連携等を支援し、規制・制度の改革を進めるため、関連制度の見直しを行う。

「新たな日常」の先取りによる成長戦力

デジタル~仕組みと事業のアップデート~

⑴デジタル基盤・ルールの整備

●共通認証システム「GビズID」等を活用し、行政手続きにおいて、一度申請した情報を再入力等を不要とするワンスオンリー化を推進するなど、デジタル行政の実現等を加速化する。

●デジタル技術の進展を踏まえ、安全の確保を前提に、より効果的・効率的な産業保安(スマート保安)を実現するための規制の総点検を進める。

●新型ウイルス感染症の影響やデジタル化のトレンドによる社会の変化に対応すべく、非接触型特許行政システムの推進、デジタル化の急速な進展で生じる課題への対応、そして新たな知財制度を支えるための安定的な基盤の構築等の措置を実施する。

⑵デジタルを活用した産業の転換

●企業経営における戦略的なシステムの利用の在り方の指針(デジタルガバナンスコード)を策定し、指標を基準に優良な取組を行う事業者を認定するDX格付を実施する。

●異なる事業・分野間でバラバラになっているシステムやデータをつなぐための標準(アーキテクチャ)を策定し、デジタル技術を活用して新たなイノベーションを生み出す企業の経営革新(デジタル・トランスフォーメーション)を加速化する。

●モビリティ・バイオ分野等でデータを活用した新たな技術・サービスを効率的に創出するため、事業者間でのデータの共有や共同開発の取組を支援。さらに、AI人材と中小企業のマッチング・協働を促進する。

●遠隔・非対面・非接触技術を活用した新たなビジネスモデルへの転換を促進するため、キャッシュレス決済などの非接触機会の拡大や、大容量・低遅延・同時多接続の特性を備えた次世代ソフトウェアの技術開発等を支援する。

●デジタル化を支える量子、AI、ロボット、自動走行等の研究開発を推進する。

グリーン~コロナを機に脱炭素化を深化~

⑴脱炭素化に向けたエネルギー転換

●2030年に向けて、電力の安定供給と事業者の予見性を確保しつつ、非効率な石炭火力のフェードアウトを実現するための規則的手法のあり方等について検討を進める。

●再生可能エネルギーが主力電源として位置づけられるような「再生可能エネルギー型の経済社会」を創造するため、FIP制度(市場価格に割増金を上乗せする方式)の詳細検討や、基幹送電線利用ルールの見直し等を進める。

●最先端の高効率石炭火力の実働に向けた設備導入(2022年に世界初の実機レベルの実証)やCO2フリーアンモニアの混焼実証(2024年に混焼率20%)を進める。

●洋上風力の導入拡大や国産木質バイオマス低コスト化の支援等により、再生可能エネルギー主力電源化を推進するとともに、需要側(モビリティ、工場等)における電化等のエネルギー転換・省エネルギーを推進する。

●CO2を吸収して造られるコンクリート、CO2から化学品を製造する人工光合成、CO2船舶輸送実証等、カーボンリサイクル・CCUS技術の開発の支援、脱炭素化に向けた資金環境の設備を進める。

●水素社会の実現に向け、豪州から水素を液化水素船で運ぶ世界初の実証や、福島における再生可能エネルギー由来水素等による駅や工場のCO2排出ゼロ化、水素を活用して鉄鉱石を還元する製鉄技術の実証・開発等を支援する。

●原子カイノベーションを推進するとともに、原子力立地地域振興策を拡充する。

●温室効果ガス削減の取組へのファイナンスについて、再生可能エネルギー等の脱炭素化を図る取組だけではなく、製造業などが省エネルギーやエネルギー転換などで着実に脱炭素化を進める「移行(トランジション)」の取組へのファイナンスを促進する。

⑵資源循環への転換

●資源を有効利用する高度なプラスチックリサイクル技術等の開発を支援する。

●プラスチック資源の排出抑制、循環利用及び再生可能な資源の代替利用を促進するため、使い捨てプラスチック製品の排出抑制や市町村による分別収集・再商品化及び事業者による回収・再資源化の取組促進に向けた制度の見直しを行う。

健康・医療~健康な暮らしの確保~

⑴国民の命を守る物資の確保

●人工呼吸器等の高度医療機器や先進的な介護福祉用具を異業種を含めて国内で開発できる体制を構築するとともに、中小企業が有するものづくり技術を活用した医療機器開発・事業化支援等を通じた医療機器産業の強靭化を図る。

●新型コロナウイルスにも対応した、バイオ医薬品や再生医療等製品の国内製造技術基盤を確立する。

●大学と企業連携促進による有望なシーズ研究の発掘と若手研究者を深淵する。

⑵予防・健康づくりの実現

●健康情報等に基づく医学的根拠・裏付けを活用した評価指標・手法を確立し、優れた製品・サービスの創出を促進する。

●経営者や従業員、投資家等が評価できる仕組みづくりを通じて、健康経営の見える化と健康投資を促進する。

分野横断的課題への対応

レジリエンス~安心して生活できる環境の構築~

⑴サプライチェーン(製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの全体の一連の流れ)強靭化・サプライネット(危機に備えて企業が生産拠点や調達先を分散)の構築

●5G等を活用した製造業の企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化等をはじめとしたサプライチェーンの強靭化を図る。

●半導体等のじゅう重要産業分野に対する重点的な支援を行う。

●ガイドライン策定や、経営者の意識喚起・人材育成等を通じたサプライチェーン全体としてのサイバーセキュリティを強化する。

⑵経済・安全保障を一体として捉えた政策の推進

●国際的な機微技術管理強化の動きを踏まえ、半導体等の要となる技術を特定・把握し保護するための方策を検討・推進する。

●国内外の重要技術の動向調査や中小企業・大学等の技術管理体制の構築を支援する。

●資源・エネルギー供給源の安定確保のため、権益確保を後押しするJOGMECによるリスクマネー供給や鉱物資源探査等を推進する。

●メタンハイドレート等の海洋資源を含む国産資源開発の推進やレアメタル・レアアース等の海外鉱床調査を実施する。

●頻発する自然災害に備え、製油所の排水ポンプの増強等の大雨・高潮対策等やSS(サービスステーション)における地下タンクの大型化、避難所等の社会的重要インフラへの燃料タンク導入等による災害対応を支援する。

●強靭かつ持続可能な電力システムの構築に必要な投資を確保するため、レベニューキャップ制度(託送料金制度)の導入や必要な市場の制度整備について具体的な検討を深める。

中小企業・地域

⑴中小企業の新陳代謝

●中小企業の生産性向上を促進するため、みなし中小企業者への支援強靭化等の成長段階に応じたシームレスな支援により中小企業の成長発展を後押しするとともに、事業継続力強化の基盤を整備する。

●中小企業や小規模事業者による、AI、IoT等を活用した産学官連携のものづくりを支える技術の研究開発や新しいサービスモデル開発等を支援する。また、「ものづくり補助金」「自治体型持続化補助金」「IT連携支援事業」により中小企業の生産性向上を促進する。

●中小企業の経営資源引継ぎ(事業継承、M&A等)について、事業承継診断や譲渡・譲受事業者間の橋渡し等を行う一元的な支援体制を整備するとともに、専門家活用や引継ぎ後の設備投資等を支援する。併せて、中小企業の円滑な事業再生や経営者の再チャレンジに向けた支援を実施する。

●消費税転嫁状況を含む取引実態をGメン調査等を通じて把握し、サプライチェーン全体にわたる取引環境の改善を促進する。

●新型コロナウイルスの影響を受けた中小企業が早期に経営を安定化させ再起を図れるよう、よろず支援拠点や商工会等による経営相談を実施する。

●新たな生活様式に対応した展示会等イベント産業の高度化を含めた新たなビジネスモデル変革を構築する。

⑵地域経済の強化と一極集中是正

●デジタルを活用した地域企業・産業の競争力強化と、若者を中心とした人材の地方移動支援等による新たな人流を創り出す。

●観光、農業など成長が期待される地域資源を活用した地域経済の持続的発展を促進する。

●大阪・関西万博開催に向けた準備を本格化する。

人材・イノベーション

⑴変革を実現する人材の育成

●小中高・高専におけるGIGAスクール構想の下、1人1台端末と連動したEdTech(Education(教育)×Technology(科学技術)の造語)活用による学びの個別最適化、STEAM教育(科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Mathematics)を活用した文理融合の課題解決型教育)を促進する。

●アート・デザイン思考等を用いて創造性を磨くリカレント教育を推進する。

⑵イノベーション・エコシステムの創出

●J-Startup企業の国内外展開支援、SBIR(Small Business Innovation Research)制度や事業会社との連携促進等を通じた研究開発型スタートアップの育成。併せて出向起業等による新規事業の創造を促進する。

イノベーション・エコシステムとは、国の各セクター(産官学にわたる多様な組織)が、自然環境保全(エコ)でかつ相互に協働、競争を続け、技術革新(イノベーション)を誘発するように働く制度(システム)です。

国内政策と一体になった対外経済政策

⑴国際協調の維持

●国際機関を通じた協力強化等により、ポストコロナにおける通商ルール形成を推進する(データ移転、緊急時対応等)。

⑵有志国との連携強化

●事業化可能性調査や人材育成支援等の実施による、我が国の質の高いインフラの海外展開を促進する。

●海外進出で産業を担う人材の育成や、海外学生等のインターンシップ受入れ等を通じた官民連携による技術協力を推進する。

⑶海外展開支援強化

●新たなデジタルビジネスを牽引する現地企業と日本企業の連携・協業を促進し、ADX(Asia Digital Transformation)を推進する。

●急拡大する世界の電子商取引(EC)市場への参入支援やオンライン商談支援等による海外市場獲得を後押しする。

●中堅・中小企業に対する海外展開計画の策定から市場開拓までを一貫支援する。

最重要課題:廃炉・汚染水対策/福島の復興を着実に進める

⑴廃炉・汚染水対策

●2021年に、福島第一原子力発電所の燃料デブリ取り出しに着手し、その後の取り出し規模拡大に向け、燃料デブリへの到達手段やロボットアーム等難易度の高い技術開発を実施する。

⑵福島の復興

●なりわいの再建、魅力発信による風評被害の払拭、福島イノベーション・コースト構想を強力に推進する。

●2020年3月に開所した世界最大級の再生可能エネルギ―由来水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」での実証の実施(水電解装置の耐久性の検証や制御システムの最適化等)や、製造した水素の先進導入する。

詳しくはこちら☞経済産業省

まとめ

政策の重点には、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける中での事業と雇用を守るための緊急対策、顕在化した日本の経済産業の構造的問題の解決、そして将来を見据えた対応の促進など、危機的な状況にある企業等への緊急支援や新たな日常の先取りなどが挙げられています。

これから年末に向けて各省庁の発表が相次いでいくことになりますので、事業者の方は来年度の経営計画の策定のため、政策の動向を見逃さないようにしましょう。

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