グレートリセット~コロナ禍での新しい世界

世界経済フォーラム(WEF)にて、ダボス会議の創設者であるクラウス・シュワブ会長は2021年1月に開催する(初夏に延期に)年次総会(ダボス会議)のテーマをグレート・リセット」にすると発表しました。このテーマは、パンデミックの発生を受け、公正で持続可能かつレジリエンス(適応、回復する力)のある未来のために、経済・社会システムの基盤を緊急に構築することを指しています。9月21~24日には、パンデミックにより国連2030開発アジェンダやパリ協定の達成の後退が懸念される中、「グレートリセット」のテーマに沿って、気候変動への取り組みや、持続可能な開発を進めるためのソリューションを議論する「インパクトサミット2030」をWEF本部のあるコロニーからデジタル形式で開催されました。世界的な新型コロナウイルス感染症の感染が広がる中、資本主義を軸とする既存の体制には不備も目立ちます。そのため新しい体制の枠組みが必要とされています。

主旨

2021年の年次総会(ダボス会議)のテーマを「グレートリセット」としたのは持続可能な世界の構築に向け、世界の社会経済システムを考え直す(グレートリセット)する必要があると考えたためです。

背景

第二次世界大戦後から続くシステムは異なる立場の人を包み込めず、環境破壊も引き起こしています。持続性に乏しく、もはや時代遅れとなっています。人々の幸福を中心とした経済に考え直すべきであり、コロナ禍が人々や国々を脅かす中、利己主義や自国第一主義が強まっています。次世代への責任を重視した社会を模索し、弱者を支える世界を構築する必要があります。気候変動など危機への対応力や新技術の発展に向けた規制の枠組みも再考が必要です。

実はコロナ危機以前の2020年1月のダボス会議で、既に資本主義の再定義が主題になっていました。株主への利益を最優先する従来のやり方は、格差の拡大や環境問題という副作用を生んでいるという問題意識から、経営者に従業員や社会、環境にも配慮した「ステークホルダー(利害関係者)資本主義」になる必要があります。そんな中、世界的な新型コロナウイルス感染症の危機がおきました。この危機の中で、一層変革が世界的に求められ、社会経済の仕組みを強制ストップして再スタートを切る「グレートリセット」を起こす必要があるということです。

リセット後の資本主義

「資本主義という表現はもはや適切ではない。金融緩和でマネーがあふれ、資本の意味は薄れた。いまや成功を導くのはイノベーションを起こす起業家精神や才能で、むしろ『才能主義(Talentism)』と呼びたい(中略)そして、自由市場を基盤にしつつも、社会サービスを充実させた社会的市場経済が必要になる」

出典:WEFシュワブ会長

今、わたしたちが直視すべきリセットは、市場主義経済への依存からの脱却ではないか、シュワブ会長は持続可能でかつレジリエンス(回復力)の高い未来を築くために、医療や教育といった社会サービスを充実させ、人々の幸福を中心とした経済への立て直しが必要だと主張しています。経済学者のカール・ポランニーによれば、経済過程には、⑴互酬ー義務としての贈与関係や相互扶助関係 ⑵再分配ー権力の中心に対する義務的支払いと中心からの払い戻し、 ⑶交換ー市場における財の移動という三つの類型があります。持続可能な社会には、この三つのバランスが重要であると考えられています。市場交換だけでは格差が生まれやすく、政府の再分配政策にも限界があるためです。また、資本主義の変容、すなわち利益至上主義からSDGs(持続化可能な開発目標)を中心に据えた資本主義への転換を訴えています。現在の経済制度や社会制度は、物的資本が中心だった時代に作られたもので、モノの大量生産や大量消費による成長を前提にした経営思想(フォーディズム)から抜け出せていません。それらは知識経済社会に不適合であるばかりでなく、富の偏在、格差を拡大させ、環境への配慮を欠き、社会の分断と持続可能性への黄信号を加速させています。この状態を変えるのに、資本主義のシステムを再生・修復するという経路でなく、PCなどを一旦始動の状態に戻し、初めからやり直すことを意味する「リセット」という主張に新しさがあります。

企業の長期的な成長のためには、ESGが示す3つの観点が必要だという考え方が世界的に広まってきています。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとったものです。この観点は企業の株主である機関投資家の間で急速に広がっていて、投資の意思決定において、従来型の財務情報だけを重視するだけでなく、ESGも考慮に入れる手法は「ESG投資」と呼ばれています。

ESG投資という言葉が使われるようになった背景には、2010年頃からESG投資に対する機関投資家の理解が大きく変わってきたということがあります。ESG投資より前にSRI(社会的責任投資)という言葉がよく使われていた時代には、SRIというと、何か通常の投資とは違う、強く社会や環境を意識した倫理的な投資手法だ、と受け止められていました。当時SRIには否定的な見方も多く、社会や環境を意識した投資は財務リターンが低く、有効な投資手法ではないと見る向きが一般的でした。しかし、昨今、社会や環境を意識した投資は、同時に財務リターンも高く、また投資リスクが小さいという実証研究が大学研究者や金融機関実務者から発表されるようになりました。この新たな考え方は、企業経営においても「サステナビリティ(持続可能性、持続することができる)」という概念が普及し、社会や環境を意識した経営戦略は、企業利益や企業価値向上につながるといわれるようになった動きと対を成しています。日本政府もESG投資を後押ししています。2014年2月に金融庁が発表した「日本版スチュワードシップ・コード(日本の上場株式に投資する機関投資家を対象とした行動規範)」、2015年6月に金融庁と東京証券取引所が発表した「コーポレートガバナンス・コード(上場企業が行う企業統治(コーポレートガバナンス)においてガイドラインとして参照すべき原則・指針)」はともにESG投資の概念を推進する内容となっています。

画像:国連広報センター
SDGs(持続可能な開発目標)

2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標

1.貧困をなくそう

2.飢餓をゼロに

3.すべての人に健康と福祉を

4.質の高い教育をみんなに

5.ジェンダー平等を実現しよう

6.安全な水とトイレを世界中に

7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに

8.働きがいも経済成長も

9.産業と技術革新の基盤をつくろう

10.人や国の不平等をなくそう

11.住み続けられるまちづくりを

12.つくる責任 つかう責任

13.気候変動に具体的な対策を

14.海の豊かさを守ろう

15.陸の豊かさも守ろう

16.平和と公正をすべての人に

17.パートナシップで目標を達成しよう

まとめ

新しい経済と社会は大不況から生まれる—最近の新型コロナウイルスによる都市のロックダウンやあらゆる活動が抑制され、世界経済の見通しは不透明な部分が多いです。少なくとも前年比で大幅に減退していることは間違いなく、世界中の国々の財政が危機的な状況になりつつあります。そこで、「グレートリセット」という大不況の中で社会の構造から大きな変革をし、新しい世界を作ろうとしています。平常時では、抵抗勢力も強いので難しいことも、税制、規制、財政政策を改善して、世界中が平等な社会を実現してほしいです。それと同時に資本主義を優先するのでなく、なるべく平等で地球にやさしい仕組みをぜひこの機会に作っていってもらいたいです。

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