2020年、年末調整は電子化へ

平成30年度税制改正により、令和2年分の年末調整から、生命保険料控除、地震保険料控除および住宅借入金等特別控除にかかる控除証明書等について、勤務先へ電子データで提供できるよう手当されたことなどを受けて、年末調整手続きの電子化へ向けた施策が実施されます。また、2020年分年末調整から給与所得控除をはじめとする制度も見直されます。

当事務所もクライアントとのやり取りを主に郵送中心で行ってきましたが、電子化できるよう準備を進めているところです。

電子化すると、今までとどこが違うのか?というと、これまでの手書きによる手続き(年末調整申告書の記入、控除額の計算など)を省略することができ、控除証明書等をはじめ、すべてのやり取りを電子化できるということです。年末調整申告書の作成を簡素化できるというメリットがあります。控除証明書等を紛失した場合の再発行も不要となり、その手間もなくなります。

いままでは、、

①従業員が控除証明書等を書面(ハガキ等)で受け取る

②従業員が保険料控除申請書または住宅ローン控除申告書に①で受領した書面(ハガキ等)に記載された内容を転記の上、控除額を計算し記入する

③従業員が保険料控除申告書および住宅ローン控除申告書など、年末調整の際に作成する各種申告書(以下「年末調整申告書」という)を作成し、控除証明書等とともに勤務先(給与等の支払者)に提出する

④勤務先が提出された年末調整申告書に記載された控除額の検算、控除証明書等の確認を行ったうえで、年税額を計算する

電子化されると、、、

①従業員が保険会社等から控除証明書等を電子データで受け取る

②従業員が国税庁ホームページ等からダウンロードした年末調整控除申告書作成用ソフトウェアに、住所・氏名等の基礎項目を入力し、①で受領した電子データをインポート(自動入力、控除額の自動計算)して年末調整申告書の電子データを作成する

③従業員が、②の年末調整申告書データおよび①の控除証明書等データを勤務先に提供する

④勤務先が、③で提供された電子データを給与システム等にインポートして年税額を計算する

電子化されると、手書きが不要になり、手書きによる申告書への転記ミスがなくなります。勤務先でのチェックも最低限になるため大きなメリットがあります。

保険会社等から取得する控除証明書等データを利用して年末調整申告書データを作成するには、まず年末調整申告書作成用のソフトウェア(国税庁が提供する「年末調整控除申告書等作成用ソフトウェア」※国税庁が無償で提供するソフトウェア)の取得が必要です。

令和2年10月1日 国税庁のホームページより年調ソフト(Ver.1.0)が公開されました。

公開に当たっての留意事項(最初にお読みください)PDF形式

年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(Ver.1.0) Windows版 ZIP形式

年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(Ver.1.0) Mac版 ZIP形式

操作マニュアル(Windows版、Mac版)

操作マニュアル(スマートフォン版

1 年調ソフトで出力される書面印刷用の控除申告書については、国税庁ホームページに掲載している従来からの様式と見た目が異なりますが、控除申告書は法定記載項目の記載があれば法令の要件を満たすことから、年調ソフトで作成する控除申告書には、法定記載項目のみを出力することとしています。

2 「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(Ver.1.0)」をご利用される方は、「公開に当たっての留意事項」に同意したものとみなします。

3 年調ソフトの対応OSは、以下のとおりです。

  Windows版:Windows10 (64bitのみに対応、ARM社製CPUには非対応)

  Mac版:OS X 10.13 OS X 10.14 OS X 10.15

4 Windows版及びMac版については、それぞれMicrosoft Store及びMacAppStoreからもダウンロード可能です。

  Microsoft Storeからのダウンロードについて(PDF/61KB)

5 年調ソフトは、スマートフォン版(Android版及びiSO版)がありAndroid版はGooglePlay、iSO版はAppleStoreからそれぞれダウンロード可能です。

出典:国税庁ホームページ

<控除証明書等データの取得方法>

 マイナポータル連携を利用しない場合、保険会社等のホームページ等から、控除証明書データを取得します。※具体的な取得方法は保険会社等により異なります。

 マイナポータル連携を利用する場合、年末調整申告書データの作成中に、民間送達サービスに送達された複数の控除証明書等データをマイナポータルを通じて一括取得するため、控除証明書等データの取得手続きは不要となります。

参考 税制改正の概要

年末調整手続きの電子化については、平成30年度に税制改正が行われており、その概要は以下の⑴~⑶のとおりです。

⑴保険料控除証明書の電子データによる提供

⑵住宅借入金等特別控除申告書の電子化

⑶住宅借入金等特別控除証明書および年末残高証明書の電子データによる提供

マイナポータル連携サービス可能な保険会社

2020年10月より、以下の8社において「マイナポータル連携サービス」が開始されました。

  • 朝日生命保険相互会社
  • アフラック生命保険株式会社
  • 住友生命保険相互会社
  • 第一生命保険株式会社
  • 大同生命保険株式会社
  • 太陽生命保険株式会社
  • 日本生命保険相互会社
  • 明治安田生命保険相互会社

電子的控除証明書の交付は、株式会社野村総合研究所が提供する民間送達サービス「eー私書箱(イー・シショバコ)」を利用します。

出典:日本生命保険より

2020年分年末調整の変更について

〈制度上の改変〉

①給与所得控除と基礎控除の見直し

②所得金額調整控除の導入

③基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除の申告書一体化

④ひとり親控除の新設/寡婦控除の改組

⑤配偶者・扶養親族等の合計所得金額要件等の見直し

⑥住宅ローン控除(消費税増税後の住宅取得等(特別特定取得)への支援策)

⑦法定調書の電子的提出義務の対象枚数を引き下げ(1,000枚以上⇒100枚以上)

詳しく見ていきましょう。

①給与所得控除と基礎控除の見直し

給与所得控除とは、所得税などを計算する際に年収から差し引かれる控除額のことです。2020年の年末調整からは、一律で10万円が引き下げられることになりました。また、給与所得控除の上限額が220万円から195万円に引き下げられるため、年収が850万円をこえる人は10万円以上の引き下げとなります。

給与などの収入金額(年収)給与所得控除額
2017年度~2019年度分まで2020年度分以降
162.5万円以下65万円55万円
162.5万円超180万円以下収入金額×40%収入金額×40%ー10万円
180万円超360万円以下収入金額×30%+18万円収入金額×30%+8万円
360万円超660万円以下収入金額×20%+54万円収入金額×20%+44万円
660万円超850万円以下収入金額×10%+120万円収入金額×10%+110万円
850万円超1,000万円以下195万円(上限額)
1,000万円超220万円(上限額)

基礎控除は、全ての納税者に対して適用されるもので、これまでは収入に関係なく、一律38万円が控除されていました。改正後は最大48万円に引き上げられますが、合計所得金額が2,400万円を超えると所得に応じて減っていきます。2,500万円超では控除額がゼロとなり、基礎控除は適用されません。

合計所得金額基礎控除の額
2019年度分2020年度分以降
2,400万円以下38万円48万円
2,400万円超2,450万円以下32万円
2,450万円超2,500万円以下16万円
2,500万円超ゼロ

「給与所得控除の引き下げ」と「基礎控除の引き上げ」を合わせると年収850万円まではプラスマイナス0となり、「増税でも減税でもない」ということですが、年収850万円を超えると「所得税の増税」になります。

②所得金額調整控除の創設

子育てや介護を行っている人が、給与所得控除の見直しで税負担増とならないように調整する措置として、「所得金額調整控除」という控除が創設されることになりました。給与収入850万円超で以下のいずれかに該当する従業員は、年末調整で給与所得から調整控除されます。(=給与所得が下がり税負担が減る)対象は本人が特別障碍者であること23歳未満の扶養親族がいること特別障碍者である同一生計配偶者または扶養親族がいることになります。なお、適用を受けるには年末調整で所得金額調整控除申請書の提出が必要となります。また、所得調整控除額の計算の方法は以下の通りです。

所得調整控除額の計算方法

<所得銀額調整控除が適用される人>

 850万円超~1,000万円以下(給与等の収入金額) 

   + ・本人が特別障碍者

     ・23歳未満の扶養親族がいる

     ・特別障碍者である同一生計配偶者または扶養親族がいる

〈調整額の計算式

((給与等の収入金額)ー850万円)×10% 

 ※給与等の収入額が1,000万円を超える場合には、一律1,000万円として計算します。

〈計算例〉給与等の収入金額が950万円、23歳未満の扶養親族がいる場合

    (950万円ー850万円)×10%=10万円

③基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除の申告書一体化

「給与所得者の配偶者控除等申告書」に、新たな「給与所得者の基礎控除申告書」「所得金額調整控除申告書」が統合され、「給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」として、1枚の様式になりました。基礎控除は、給与所得者のほぼ全員が関係するため、配偶者がいなくても提出しなければならない書類が増えることになります。

④ひとり親控除の新設/寡婦控除の改組

 これまで寡婦(夫)控除は、離婚や死別によって配偶者がいなくなった人に適用されており、「未婚のひとり親」との格差が生じていました。今回の改正により、婚姻歴・性別によらず、すべてのひとり親に対してひとり親控除が適用されます。

ひとり親控除の適用条件

以下のすべてに該当するひとり親について、ひとり親控除を適用します。この際、婚姻歴や性別に関わらず控除額は同額となります。

・生計を一つにする子を有すること(総所得金額等が48万円以下)

・所得が500万円(給与収入678万円)以下であること

・住民票の続柄に「未届の夫」「見届の妻」など事実婚の記載がないこと

ひとり親控除の適用を受けられる人

受けられる人令和元年(2019年)分までの控除額令和2年(2020年)分からの控除額備考
未婚のひとり親0円35万円新設
寡夫控除を受けていた人27万円35万円増額
特別の寡婦控除を受けていた人35万円35万円変わらず

寡婦控除の見直し

ひとり親控除の対象とならない、配偶者と離婚・死別して扶養親族がいない/子以外の扶養親族がいる単身女性には、「寡婦控除」が適用されます。今回の改正により、寡婦控除にも所得金額や事実婚に関する条件が設けられました。

・所得が500万円(給与収入678万円)以下であること

・住民票の続柄に「見届の夫」「未届の妻」など事実婚の記載がないこと

⑤配偶者・扶養親族等の合計所得金額要件等の見直し

基礎控除や給与所得控除の見直しに合わせて、他の控除に係る合計所得金額要件も改正されています。改正後も年収ベースでの変更はないため、合計所得=給与所得のみならば、改正前後で該当・非該当に変動はありません。

改正前改正後
同一生計配偶者38万円以下48万円以下
扶養親族38万円以下48万円以下
源泉控除対象配偶者85万円以下95万円以下
配偶者特別控除の対象となる配偶者38万円超123万円以下48万円超133万円以下
勤労学生65万円以下75万円以下

⑥住宅ローン控除:増税後の住宅取得等への支援策

消費税引き上げへの対策として、住宅ローン控除について一時的に控除期間が10年から13年に延長されます。この拡充措置を受けるためには2019年10月1日~2020年12月31日までに取得・リフォームした住宅に入居していることが条件です。

11年目~13年目の各年では、以下のうち少ない方の金額を税額控除(1年目~10年目は従来の制度と同様)

住宅取得等の対価・費用の2/3%(限度額は一般住宅:4,000万円、認定住宅・震災再建住宅:5,000万円)

住宅ローン年末残高の1%(震災再建住宅の場合には1.2%)

ただし、新型コロナウイルスの影響で入居が間に合わない場合、一定の期日までに契約が行われていれば入居期限が2021年12月31日に延長されます。契約の期日は、注文住宅を新築する場合は2020年9月30日、分譲住宅・既存住宅の取得やリフォームの場合は2020年11月30日です。

⑦法定調書の電子的提出義務の対象枚数の引き下げ

年末調整に作成する源泉徴収票・支払調書などの法的調書は、種類ごとに前々年の提出枚数が1,000枚以上の場合、e-Taxや光ディスクでの提出義務がありました。2021年1月からは、枚数の基準が1,000枚から100枚に引き下げられます。そのため、2019年に源泉徴収票を100枚以上提出していた場合、2021年1月以降は源泉徴収票をe-Taxなどで提出しなければなりません。なお、提出義務の判定は支払調書の種類ごとに行うため、源泉徴収票は100枚でも支払調書は50枚だったというケースでは、源泉徴収票のみ提出が必須です。

まとめ

昨今、働き方の多様化で、働き方によって控除に差が出ないようにするための税制改正です。所得の高い人から低い人への所得の再分配を機能させるために、高所得者は増税となっています。税制改正の影響は一時的なものではなく、長期的に積み重なり、家計やライフプランに影響を与えますので、適切に把握していく必要があります。

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